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網膜専門外来

人が鮮やかにものが見えるのは、眼底の網膜の働きです。網膜は脳と同じ中枢神経であり、病気で神経細胞が失われると元にもどりません。すなわち、網膜の病気を悪化させると視力や視野が回復しにくくなるのです。網膜の病気から眼を守るためには、早期発見・早期治療が重要です。網膜の病気は多種多様ですが、日常はんがい眼科で治療させていただいている主な網膜の病気について、当院の治療方針をまとめさせていただきます。参考にしていただければと思います。

ご注意

人の視力は網膜の中心にある黄斑の働きです。この黄斑にも多種多様な病気があります。黄斑疾患の治療方針に関しましては「黄斑外来」のところでまとめさせていただきます。網膜疾患も、悪化すると黄斑が障害されることが多いのですが、網膜全体に及ぶ病気として黄斑疾患と分けられることが多いのです。

網膜剥離

網膜剥離とは

硝子体が網膜の薄い部位を引っ張ると裂けたり、孔が開いたりします(網膜裂孔・網膜円孔)。硝子体が孔の周りを引っ張り、網膜が土台から剥離して硝子体液が網膜下に侵入していくと網膜剥離になります。網膜は剥離すると、土台から酸素や栄養をもらえないため、光を感じる視細胞が死んでいき見えなくなります。最初は視野欠損が広がっていき、網膜剥離が黄斑に及ぶと視力が低下します。時間が経つほど、視細胞が減っていき、最後は失明に繋がる病気です。時間が経つほど、網膜の表や裏側に増殖膜形成が起こり、こじれていきます(増殖硝子体網膜症)。網膜剥離から眼を守るには『早期発見・早期治療』に尽きます。

網膜剥離

治療方針

まだ剥離になっていない網膜裂孔や網膜円孔で発見できた場合は、即日のレーザー光凝固術で網膜剥離を予防します。網膜剥離がすでに起きてしまっている場合は、特に進行が速い中高年の裂孔原性網膜剥離は可能な限り即日緊急手術を行います。進行の遅い若年者の網膜円孔による網膜剥離は緊急性はありません。

治療方法

  • 01予防的レーザー光凝固術

    網膜裂孔または網膜円孔の周囲を2~3重に光凝固します。凝固術直後の凝固斑は白色ですが、2週間~1ヶ月で瘢痕化が進み褐色に変化していきます。凝固斑が白っぽい間は、まだ接着力が弱いため激しい運動は控えます。下はレーザー光凝固術後の網膜裂孔(超広角レーザー検眼鏡写真)

    • レーザー光凝固直後
      (59歳女性、2019年6月7日)
    • レーザー光凝固術後3ヶ月
      (2019年9月2日)
    年齢 59歳(手術当時)
    性別 女性
    病名
    (もしくは術式)
    予防的レーザー光凝固術
    該当の手術日 2019年6月7日
    術後何日目 術後約3カ月

    レーザー斑は、直後は白色だが時間とともに瘢痕化が進み茶褐色になる。この瘢痕化が網膜裂孔を閉鎖する。

  • 02外科的治療(すべて日帰り手術です)

    • 50歳以上の裂孔原性網膜剥離:27ゲージまたは25ゲージ小切開硝子体手術+白内障手術を選択します。
    • 50歳未満の裂孔原性網膜剥離:27ゲージまたは25ゲージ小切開硝子体手術を選択します。水晶体は原則温存しますが、状態により白内障手術により眼内レンズに置き換えることもあります。
    • 若年者の網膜円孔による網膜剥離:強膜内陥術(バックリング手術)

    裂孔原性網膜剥離の最大の合併症は、裂孔閉鎖が不完全であったり、硝子体が網膜を牽引する力が強く残存したり、増殖硝子体網膜症が起きてしまうなどして、再剥離が生じて再手術が必要になることです。再剥離は患者さんの心の負担、経済的負担、仕事への影響の増大につながりますので、1回の手術で治す手術が求められます。

    • 小切開硝子体手術のイメージ図
    • 強膜内陥術(バックリング手術)のイメージ図
    再剥離のリスクが高くなる裂孔原性網膜剥離

    以下のようなケースの場合、再剥離につながるリスクがあります。

    • 巨大裂孔
    • 裂孔の位置が下方
    • 網膜全剥離
    • 裂孔不明例
    • 目の周囲にアトピーが強い方
    • (特殊)黄斑円孔網膜剥離
    • (特殊)外傷性網膜剥離

再剥離を最小化する手技の徹底

網膜再剥離の原因は網膜に対する硝子体の牽引が多く残ることで、網膜が再剥離しやすくなることにあります。①硝子体がたくさん残っていること、②炎症反応や増殖反応により硝子体が収縮すること、この2つの条件が網膜に強い牽引力をかけてしまいます。ゆえに、手術で徹底すべき手技を以下ように考えています。

  • 01硝子体を徹底的に取る

    • 後部硝子体剥離が起きていない場合は、人工的に後部硝子体剥離を赤道部までしっかり起こす
    • 特に、裂孔の周辺部と裂孔のあきやすい格子状変性の周辺部の硝子体を切除し、裂孔および格子状変性への牽引を取る。

    この周辺部硝子体切除は、以前は治療器具が大きく、カッターの回転数が遅いため、硝子体を取ろうとするほど網膜に孔が開きやすくなる操作でした。小切開硝子体手術になりカッターの回転数も7500~1000cpmへ高速化して、網膜に孔を開けずに硝子体を十分に取ることができるようになりました。

  • 02術後の炎症を抑える

    小切開硝子体手術を選択する

    小切開硝子体手術になり術後炎症はかなり軽減されました。当院では、27ゲージまたは25ゲージ小切開硝子体手術で網膜剥離を治療します。

    硝子体を十分に切除する

    繰り返しになりますが、徹底した硝子体切除が、術後炎症の軽減にもつながります。特に、網膜周辺部の硝子体を十分に切除して炎症の場を減らすことが重要です。

    術後の消炎を徹底する

    通常、ステロイド点眼と非ステロイド系抗炎症薬点眼で、術後炎症をコントロールします。再剥離のリスクの高い症例の中には、術後炎症が強く出る場合があります。その場合は、適宜、ステロイド点眼の回数を増やす、テノン嚢下ステロイド懸濁液注射を行うなど抗炎症治療を強化します。

    • 裂孔原性網膜剥離(初診時 2018年9月10日)
      網膜全周に多発裂孔を認めた。耳上側の縦裂きの網膜裂孔が原因裂孔と思われる。
    • 術後約4.5月(2019年1月26日)
      網膜裂孔はすべて閉鎖され網膜は復位している
    年齢 59歳(手術当時)
    性別 男性/女性
    病名
    (もしくは術式)
    裂孔原性網膜剥離
    該当の手術日 2018年9月ごろ
    術後何日目 術後約4.5カ月

糖尿病網膜症

増殖糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、血管新生緑内障の治療方針をまとめます。

糖尿病網膜症とは

糖尿病網膜症が進行しますと、糖尿病黄斑浮腫、増殖糖尿病網膜症、血管新生緑内障などの合併症が起きて網膜や視神経の機能を障害します。血糖値のコントロールにより、網膜症の進行を抑えて、これら合併症を防ぐことが大切ですが、合併症へと進んだ場合は、果断な治療開始が必要になります。当院では、糖尿病のある方には、超広角レーザー検眼鏡Optosを用いて網膜症の発症と進行を見張り適切なアドバイスを行うとともに、合併症の早期発見に努めます。特に悪化の元凶となるのは、毛細血管に血流がなくなる「無灌流領域」の形成と拡大です。当院では、広角OCTアンギオグラフィーを用いて無灌流領域の形成の有無をモニターします。以下では、合併症が進んだ場合の治療方針を増殖糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、血管新生緑内障に分けて説明いたします。糖尿病黄斑浮腫の治療の鍵は、『抗VEGF治療』、『汎網膜光凝固術』です。

増殖糖尿病網膜症の治療方針

糖尿病網膜症が進行すると、毛細血管に血液が通わない無灌流領域が増えていきます。すると、血管を増やそうとして新しい血管(新生血管)が網膜や隅角に形成されて、牽引性網膜剥離や血管新生緑内障などの失明のリスクのある合併症が生じます。これを増殖糖尿病網膜症といいます。この増殖反応を抑え込むには、汎網膜光凝固術が決め手になります。

  • 01単純糖尿病網膜症の段階

    網膜の点状・シミ状出血や毛細血管瘤が形成されるが、無灌流領域は形成されていない段階です。内科での糖尿病管理と眼科で経過観察を行います。次の前増殖期に悪化するサインを見逃さないことが重要です。当院では眼底精査、超広角レーザー検眼鏡Optos、造影剤を用いないOCTアンギオグラフィーで観察を行い、悪化の徴候を見つけたら、フルオレセイン蛍光眼底造影を行い無灌流領域を可視化します。

    • 単純糖尿病網膜症の蛍光眼底造影(超広角レーザー検眼鏡で撮影)無数の毛細血管瘤(白い点々)を認めるが、無灌流領域は認めない。
    • 単純糖尿病網膜症のOCTアンギオグラフィー蛍光眼底造影と同じ目である。無灌流領域を認めない。
  • 02増殖前糖尿病網膜症の段階

    増殖前糖尿病網膜症の蛍光眼底造影(レーザー走査検眼鏡で撮影)毛細血管に血液が流れていない無灌流領域は造影剤が届かないため黒っぽく映る。

    無灌流領域が形成されているが、新生血管は認めない段階です。無灌流領域が広く形成されていることを見いだしたら、汎網膜光凝固術を行います。この時期に十分汎網膜光凝固術を行えば、次の増殖期に悪化するリスクをかなり減らすことができます。

  • 03増殖糖尿病網膜症の段階

    無灌流領域が広くなると新生血管が生えてきて。新生血管がさまざまな重大な合併症を引き起こし失明のリスクを高めます。これが増殖糖尿病網膜症です。この段階でも、まず汎網膜光凝固術を十分に行い網膜症の鎮静化を図ります。しかし、この段階で汎網膜光凝固術を行っても、新生血管は完全には消えませんので、合併症が起こってくることが多く手術治療が必要になります。硝子体出血が起きていると、それが邪魔をして汎網膜光凝固術を行えませんので、硝子体手術で出血を取り除き、汎網膜光凝固術を行います。

    網膜新生血管による合併症
    増殖糖尿病網膜症の超広角レーザー検眼鏡写真血管増殖膜を認める

    網膜新生血管がコア病巣となって、硝子体出血、血管増殖膜形成、牽引性網膜剥離などの合併症を引き起こします。硝子体出血を起こすと急に見えなくなりますが、手術で出血を除去すれば視力が戻りますので怖くありません。問題は、血管増殖膜形成と牽引性網膜剥離です。これは放置すると視力の源である黄斑を破壊してしまいます。このような合併症が生じたら、早めに硝子体手術を行い、これらの問題を解消するとともに、手術中に目の中から直接レーザー凝固術を網膜の周辺部にまで追加し網膜症の勢いを抑え込みます。

    • 増殖糖尿病網膜症の蛍光眼底造影(超広角レーザー検眼鏡で撮影)広い範囲に無灌流領域(黒い部位)を認め、多数の新生血管(白い斑点部位)を認める。
    • 増殖糖尿病網膜症のOCTアンギオグラフィー像広い範囲に無灌流領域(黒い部位)を認め、花のようなパターンの新生血管を認める。
    • 増殖糖尿病網膜症の超広角レーザー検眼鏡写真
      硝子体出血を認める
    • 増殖糖尿病網膜症の超広角レーザー検眼鏡写真
      血管増殖膜による牽引性網膜剥離を認める
    隅角新生血管による血管新生緑内障

    目の中の房水の出口である隅角に新生血管が生えると眼圧が上昇して緑内障になります。これを血管新生緑内障と言います。血管新生緑内障は、もっとも治療が困難な緑内障です。血管新生緑内障の治療方針は後で詳述します。

増殖糖尿病網膜症の治療方法

汎網膜光凝固術

汎網膜光凝固術後の超広角レーザー検眼鏡写真

当院は、自動パターンレーザーができるPASCALを用いて汎網膜光凝固術を行います。痛みが少なく、治療時間の短縮が可能です。可能な限り網膜の周辺まで打つことが重要です。1度に行うと炎症が強くなり黄斑浮腫を悪化させますので3回程度に分けて完成させます。周辺部はパターンを用いずシングルスポット照射で追加打ちを行います。

硝子体手術(日帰り手術です)

症例に応じて27~23ゲージ小切開硝子体手術を使い分けます。増殖糖尿病網膜症の手術の問題は、術後に再硝子体出血、網膜再剥離、血管新生緑内障などの合併症を繰り返し視機能を悪くしてしまうことです。このような術後合併症が起きるリスクを可能な限り下げるために、以下の手技を徹底します。

  • 後部硝子体剥離が生じていないことが多いので、人工的に後部硝子体剥離を起こし、網膜にかかる硝子体の牽引力を極力取り除く
  • 硝子体を周辺部まで徹底的に切除して、周辺部の血管新生の足場を残さないとともに術後の前部増殖硝子体網膜症を予防する
  • 可能な限り網膜に孔を開けずに血管増殖膜を切除して網膜を復位する
  • 網膜の周辺部に術中汎網膜光凝固術を行い術後の血管新生緑内障を予防する
  • 硝子体出血を起こした増殖糖尿病網膜症(63歳女性)の術前
    矯正視力30cm指数弁(2019年3月27日)
  • 術後4.5ヶ月目(2019年8月19日)
    矯正視力0.2
年齢 63歳(手術当時)
性別 女性
病名
(もしくは術式)
増殖糖尿病網膜症
該当の手術日 2019年3月27日
術後何日目 術後約4.5カ月
  • 血管増殖膜を生じた増殖糖尿病網膜症の術前
    (35歳男性、矯正視力0.3, 2018年11月21日)
  • 術後8ヶ月(矯正視力0.7, 2019年7月17日)
年齢 35歳(手術当時)
性別 男性
病名
(もしくは術式)
増殖糖尿病網膜症
該当の手術日 2018年11月21日
術後何日目 術後約8カ月

糖尿病黄斑浮腫の治療方針

糖尿病黄斑浮腫は、病態が複雑ですが毛細血管から血液成分を漏れやすくするVEGFという蛋白質が病態の主役です。このVEGFを抑える治療、すなわち抗VEGF薬の硝子体注射が第一選択治療です。糖尿病黄斑浮腫は、黄斑の光を感じる視細胞を破壊して視力を奪いますので、見つけ次第、抗VEGF薬の硝子体注射を徹底的に行うことで黄斑の視細胞を守ります。

糖尿病黄斑浮腫 治療前(2018年3月3日、52歳男性、矯正視力0.2)
抗VEGF治療硝子体注射9回後(2019年10月19日、矯正視力0.9)
年齢 52歳(手術当時)
性別 男性
病名
(もしくは術式)
糖尿病黄斑浮腫
該当の手術日 2018年3月3日
術後何日目 術後約1年7カ月

治療のタイミング

糖尿病黄斑浮腫が悪化すると黄斑の光を感じる細胞(視細胞)が死滅して中心が見えなくなります。当院では、まずできるだけ速やかに黄斑浮腫の主犯であるVEGFを抑える抗VEGF薬の硝子体注射を開始します。

硝子体注射の回数

抗VEGF薬の効果は約1ヶ月しか続きませんので、1~2ヶ月後に黄斑浮腫が再発することが多いのです。再発を繰り返すうちに黄斑の視細胞が減り視力が低下するとともに、病態が炎症や硝子体の変化などが複雑に絡み合い治療に抵抗するようになります。このため、診断後早めに徹底的に病気の勢いを抑えることが重要と考えます。このため、まず1ヶ月ごとに3回の硝子体注射を行います。3回行って効果は認めるが、まだ黄斑浮腫が残っている場合は、毎月投与を黄斑浮腫が無くなるまで続けます。黄斑浮腫が消退しましたら、その後は、基本的に次の2つの方法で硝子体注射からの離脱を図ります。

  • 01PRN法(必要時投与法)

    1ヶ月ごとの診察でOCTを用いて黄斑をモニターして、黄斑浮腫の再発を認めたらその都度注射を行う。

    Merit
    • 無駄な硝子体注射がなくなる
    Demerit
    • 必ず再発してから打つことになるため、病態が複雑化したり、光を感じる視細胞が減少したりするリスクがあります。この結果、視力が徐々に低下すると報告されています(Singer MA et al.: Ophthalmology 2012; 119: 1175-1183; Rofagha S et al.: Ophthalmology 2013; 120: 2292-2299.)
    • 毎月の診察が必須になる
  • 02Treat and Extend法

    難しい表現ですが、「再発の無いことを確認しながら注射間隔を延ばしていく方法」とご理解ください。当院は、黄斑浮腫が消退したら、次に1.5ヶ月後に硝子体注射を行い、注射当日OCTで黄斑浮腫の再発が無いかどうか調べます。もし、黄斑浮腫の再発が無ければ、その次は2ヶ月後に硝子体注射を行います。この時黄斑浮腫の再発が無ければ2.5ヶ月後に硝子体注射を行います。このように0.5ヶ月づつ硝子体注射の間隔を延ばしていき、3ヶ月開けても再発を認めなければ硝子体注射をいったん中止します。しかし、例えば2.5ヶ月開けたときに黄斑浮腫の再発を認めたら、以降はしばらく2ヶ月ごとの硝子体注射を続けます(固定投与)。

    Merit
    • 黄斑浮腫の再発を繰り返さないため、改善した視力を維持できます(Traine PG et al.: Ophthalmol Retina 2019; 3: 393–399.)
    • 投与間隔が延びで行くため来院回数を減らすことができます(Hanemoto T et al.: PLOS ONE 2017; 12: e0189035.)
    Demerit
    • 軽症例の場合、無駄な硝子体注射をしているケースが含まれてしまう。

PRN法か?Treat and Extend法か?

PRN法とTreat and Extend法のどちら使っていくかは患者さんの症状に合わせ決めます。糖尿病黄斑浮腫は病態が複雑で、抗VEGF薬治療に抵抗したり、再発しやすい傾向があり、注射の回数は多くなりがちです。このような病態で、PRN法を続けると再発回数も多くなり、黄斑の視細胞が減少し視力が戻りにくくなります。このため、Treat and Extend法を選択することが多いのです。ただし、なかには抗VEGF薬治療で速やかに黄斑浮腫が解消する軽症例もあり、このような場合はPRN法を選びます。

血管新生緑内障の治療方針

増殖糖尿病網膜症から血管新生緑内障が続発するということは、網膜の虚血がとても強いことを意味します。このため、基本的治療は血管新生の勢いを止めるための汎網膜光凝固術になります。すでに、汎網膜光凝固術が行われていても虚血が強いと血管新生緑内障を起こすことがありますので、その場合は汎網膜光凝固術を追加します。しかし、それだけでは抑えきれないことが多く、緑内障手術や硝子体手術との併用治療が必要になります。次のような目の状態により治療アプローチが異なります。

房水の出口である線維柱帯が新生血管により破壊されているかどうか?

隅角の新生血管は房水の排出口である線維柱帯というフィルターを破壊します。線維柱帯が破壊される前なら、汎網膜光凝固術を十分に行うことで眼圧下降を得ることがあります。しかし、線維柱帯の破壊が強い場合は、汎網膜光凝固術を行って血管新生の勢いを抑えられたとしても、破壊された線維柱帯の機能は戻りませんので、眼圧は高いままです。その場合の高眼圧は生やさしいものではなく、薬物的に抑えきれず緑内障手術が必要になることが多いです。

前房出血や硝子体出血があるかどうか?

前房出血や硝子体出血がある場合は、出血が邪魔して汎網膜光凝固術を行うことができませんので、硝子体手術を行い、眼内から直接に汎網膜光凝固術を行います。術後も前房出血が続き、高眼圧が続くことが多いため、緑内障手術も同時に行うことが多いです。

  • 血管新生緑内障の前眼部写真
    虹彩に多数の新生血管を認める(ルベオーシス)。前房出血のリスクが高い
  • 血管新生緑内障の蛍光眼底造影で認めた広範囲の無灌流領域
    超広角レーザー検眼鏡で撮影

血管新生緑内障の治療方法

  • 01汎網膜光凝固術

    強い虚血を抑えるために十分に汎網膜光凝固を行います。しかし、糖尿病の方は瞳の開き(散瞳)が不良であるため網膜の端まで十分に光凝固できないことが多く、その場合は硝子体手術により目の中から網膜の端まで汎網膜光凝固を行う場合もあります。前房出血や硝子体出血がある場合は、汎網膜光凝固術が行えませんので、やはり硝子体手術が必要です。

  • 02硝子体手術

    硝子体手術時に行った汎網膜光凝固術
    (2018年3月30日、超広角レーザー検眼鏡写真)

    増殖糖尿病網膜症の治療でも行う硝子体手術ですが、血管新生緑内障の場合は眼内から汎網膜光凝固術を網膜の端まで行うことを目的とします。特に、前房出血や硝子体出血がある血管新生緑内障は必須になります。もちろん、血管増殖膜や牽引性網膜剥離があれば、一緒に解決します。

  • 03緑内障手術

    血管新生緑内障の眼圧上昇は急激であることが多く、薬物的治療が限界を超えてしまい、緊急に緑内障手術でとりあえず眼圧を落ち着かせる必要があることが多いです。硝子体手術で血管増殖膜や牽引性網膜剥離を治して網膜を守っても、術後に高眼圧が続いて視神経を傷めてしまい、結局見えなくなるリスクが高いのです。それゆえ、増殖糖尿病網膜症は網膜と同時に視神経を高眼圧から守らねばならないのです。そのための治療戦略が、硝子体手術と緑内障手術の併用療法なのです。緑内障手術の第1選択は線維柱帯切除術(トラベクレクトミー→リンク)です。しかし、血管新生緑内障の目は瘢痕化が強く起こるため線維柱帯切除術が効かないことがあります。その場合は、プレート付きインプラントを用いた手術(チューブシャント手術→リンク)を行います。インプラントには、バルベルトインプラントとアーメドインプラントの2種類を使い分けます。前房出血が強く、線維柱帯切除術が効きにくいと予想される重症例は、最初からチューブシャント手術を行います。

    インプラントの種類

網膜静脈閉塞症

網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症は、まず黄斑浮腫で視力が落ちますので黄斑浮腫の管理が重要になります。その後、両疾患ともに毛細血管に血液が巡らなくなる無灌流領域が形成されると、それぞれの疾患固有のやっかいな合併症が生じ治療が必要になります。この合併症の管理を疾患ごとに詳述します。

網膜静脈閉塞症とは

網膜静脈閉塞症とは、文字通り、網膜の静脈が閉塞して戻れなくなって血液が静脈からあふれ出し網膜、特に黄斑に血液成分が溜まり網膜出血や黄斑浮腫を引き起こします。 糖尿病網膜症と並び、眼底出血と黄斑浮腫を起こす代表的な疾患に挙げられます。 50歳以上の年配の方におきやすい病気ですが、高血圧が最も関係が深い危険因子です。 網膜から目の外へ出て行く静脈は1本しかなく網膜中心静脈といいます。網膜中心静脈が閉塞した場合が網膜中心静脈閉塞症、その枝が閉塞した場合が網膜静脈分枝閉塞症です。一般に、網膜中心静脈閉塞症の方が、網膜静脈分枝閉塞症よりも重症であり、治療内容が濃くなり時間がかかります。

  • 網膜中心静脈閉塞症の眼底写真
  • 網膜中心静脈閉塞症の超広角レーザー検眼鏡写真

網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫の治療方針

フレッシュな黄斑浮腫は、病態がシンプルでVEGFという蛋白質が毛細血管から血液成分を漏れやすくします。このVEGFを抑える治療、すなわち抗VEGF薬の硝子体注射が第一選択治療になります。

網膜中心静脈閉塞症の黄斑浮腫 治療前(2019年11月6日、68歳女性、矯正視力0.2)
抗VEGF治療2回後(2019年12月17日、矯正視力0.4)
年齢 68歳(手術当時)
性別 女性
病名
(もしくは術式)
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫
該当の手術日 2019年11月6日
術後何日目 術後約1カ月

治療のタイミング

当院では病態がシンプルで複雑になる前に黄斑浮腫をたたき、光を感じる視細胞が減らないように守ることを目標に、診断後できるだけ速やかに抗VEGF薬の硝子体注射を開始します。

硝子体注射の回数

抗VEGF薬の効果は約1ヶ月しか続きませんので、1~2ヶ月後に黄斑浮腫が再発することが多いのです。再発を繰り返すうちに黄斑の視細胞が減り視力が低下するとともに、病態が炎症や硝子体の変化などが複雑に絡み合い治療に抵抗するようになります。このため、初期のうちに徹底的に病気の勢いを抑えることが重要と考えます。このため、まず1ヶ月ごとに3回の硝子体注射を行います。3回行って効果は認めるが、まだ黄斑浮腫が残っている場合は、毎月投与を黄斑浮腫が無くなるまで続けます。黄斑浮腫が消退しましたら、その後は、基本的に次の2つの方法で硝子体注射からの離脱を図ります。

  • 01PRN法(必要時投与法)

    1ヶ月ごとの診察でOCTを用いて黄斑をモニターして、黄斑浮腫の再発を認めたらその都度注射を行う。

    Merit
    • 無駄な硝子体注射がなくなる
    Demerit
    • 必ず再発してから打つことになるため、病態が複雑化したり、光を感じる視細胞が減少したりするリスクがあります。この結果、視力が徐々に低下すると報告されています(Singer MA et al.: Ophthalmology 2012; 119: 1175-1183; Rofagha S et al.: Ophthalmology 2013; 120: 2292-2299.)
    • 毎月の診察が必須になる
  • 02Treat and Extend法

    難しい表現ですが、「再発の無いことを確認しながら注射間隔を延ばしていく方法」とご理解ください。当院は、黄斑浮腫が消退したら、次に1.5ヶ月後に硝子体注射を行い、注射当日OCTで黄斑浮腫の再発が無いかどうか調べます。もし、黄斑浮腫の再発が無ければ、その次は2ヶ月後に硝子体注射を行います。この時黄斑浮腫の再発が無ければ2.5ヶ月後に硝子体注射を行います。このように0.5ヶ月づつ硝子体注射の間隔を延ばしていき、3ヶ月開けても再発を認めなければ硝子体注射をいったん中止します。しかし、例えば2.5ヶ月開けたときに黄斑浮腫の再発を認めたら、以降はしばらく2ヶ月ごとの硝子体注射を続けます(固定投与)。

    Merit
    • 黄斑浮腫の再発を繰り返さないため、改善した視力を維持できます(Traine PG et al.: Ophthalmol Retina 2019; 3: 393–399.)
    • 投与間隔が延びで行くため来院回数を減らすことができます(Hanemoto T et al.: PLOS ONE 2017; 12: e0189035.)
    Demerit
    • 軽症例の場合、無駄な硝子体注射をしているケースが含まれてしまう。

PRN法か?Treat and Extend法か?

PRN法とTreat and Extend法のどちら使っていくかは患者さんの症状に合わせ決めます。糖尿病黄斑浮腫は病態が複雑で、抗VEGF薬治療に抵抗したり、再発しやすい傾向があり、注射の回数は多くなりがちです。このような病態で、PRN法を続けると再発回数も多くなり、黄斑の視細胞が減少し視力が戻りにくくなります。このため、Treat and Extend法を選択することが多いのです。ただし、なかには抗VEGF薬治療で速やかに黄斑浮腫が解消する軽症例もあり、このような場合はPRN法を選びます。

他の合併症の治療方針

網膜静脈分枝閉塞症の合併症

  • 01硝子体出血

    静脈の枝が閉塞し網膜が虚血になると増殖糖尿病網膜症と同じように血液が流れない無灌流領域が形成されて網膜新生血管を作り出します。網膜新生血管が破れて硝子体の中に出血することを硝子体出血といいます。墨が流れたように見えたり、急に見えなくなります。

    • 網膜血管新生を予防する目的で無灌流領域にレーザー光凝固術を行います。
    • 硝子体出血が濃厚な場合は、硝子体手術で硝子体出血を取り除きます。
  • 02網膜剥離

    無灌流領域の網膜は、硝子体との癒着が強い上、薄くなっていますので、網膜裂孔が形成されやすく網膜剥離になることがあります。増殖膜が形成され網膜を牽引して網膜裂孔が開く場合もあります。

    • 硝子体手術で網膜を復位させます。増殖膜が原因の場合は増殖膜を切除します。

網膜中心静脈閉塞症の合併症

  • 01血管新生緑内障

    網膜の広い範囲が無灌流領域になると房水の出口である隅角に新生血管が生えてきて隅角を破壊して眼圧が上昇します。網膜中心静脈閉塞症による血管新生緑内障の特徴は、急速に進むことにあります。

    • 無灌流領域の発見が予防の鍵です。最初から無灌流領域が形成される重症例もあれば、途中から急に無灌流領域が形成され虚血に陥ることがあります(虚血転化といいます)。いつ虚血転化が起きるかは予測が難しいのです。このため、定期的にOCTアンギオグラフィーを行い無灌流領域が現れるタイミングを捉えます。OCTアンギオグラフィーは網膜の周辺部を捉えることができないため、病状の変化を感じたら超広角レーザー検眼鏡で蛍光眼底造影を行い無灌流領域の範囲を調べ、広範囲なら速やかに汎網膜光凝固術を行い血管新生緑内障を予防します。眼圧を診察ごとに測定したり、時にして隅角検査を行い血管新生緑内障の早期発見に努めます。
    • 速やかに汎網膜光凝固術を行います。新生血管によって隅角の破壊が進んでいなければ、汎網膜光凝固術と薬物的治療により眼圧コントロールはできます。 隅角の破壊が強かったり、虹彩が癒着して隅角を塞いでしまう(周辺部虹彩癒着)と、汎網膜光凝固術と薬物的治療だけでは眼圧をコントロールできなくなり、緑内障手術が必要になります。 硝子体出血や前房出血が併発しているとレーザーが眼底に届かないため汎網膜光凝固術ができません。眼圧が高すぎて角膜が白く濁っていても同様です。このような場合は、刻々と視神経のダメージが進みますので、即座に硝子体手術を行い、汎網膜光凝固術を行い網膜症の勢いを抑えます。このような重症例は、硝子体手術だけを行っても、術後高眼圧で視神経のダメージが進むため、同時に緑内障手術を行う場合がほとんどです。 緑内障手術は、まず線維柱帯切除術(リンク)を行います。汎網膜光凝固術が奏効していれば効果があります。しかし、血管新生緑内障の目は瘢痕化が強く起こるため線維柱帯切除術が効かないことがあります。その場合は、プレート付きインプラントを用いた手術(チューブシャント手術 リンク)を行います。インプラントには、バルベルトインプラントとアーメドインプラントの2種類を使い分けます。前房出血が強く、線維柱帯切除術が効きにくいと予想される重症例は、最初からチューブシャント手術を行います。
  • 02虚血黄斑症

    黄斑部の毛細血管に血液が流れなくなると虚血黄斑症になります。虚血になった黄斑の光を感じる視細胞は死滅していき中心部が見えなくなる重大な合併症です。なってしまうと回復が難しいため、可能な限り虚血を悪化させないことが必要です。完全に防げるわけではありませんが、必要に応じて、汎網膜光凝固、抗VEGF治療、抗炎症治療を行います。過度にVEGFを抑えると黄斑虚血が強まるとの意見もあることを念頭に置いて黄斑浮腫の治療を行います。

増殖硝子体網膜症

増殖硝子体網膜症とは

網膜剥離を長期間放置していた場合や、眼内の炎症が強い症例、手術後の再剥離などでは、増殖硝子体網膜症という非常に難治な病態になることがあります。これは、網膜表面にある硝子体というゼリー状の物質を足場にして増殖膜が形成され、それが収縮すると網膜にシワができ、網膜の再接着が困難となります。

増殖硝子体網膜症の治療方針

増殖硝子体網膜症は、網膜剥離の治療が遅れたり、治療がこじれたりして増殖反応のスイッチが入り、網膜表面に増殖膜が張り増殖膜が網膜を牽引して剥離をきたす難治な病態です。特に、外傷性の網膜剥離は、増殖硝子体網膜症になるリスクが高いです。増殖糖尿病網膜症がこじれてなることもあります。

増殖硝子体網膜症の超広角レーザー検眼鏡写真

増殖硝子体網膜症の治療方法

小切開硝子体手術のイメージ図

硝子体手術により下記の技術を駆使して、網膜の柔軟性を取り戻し、復位を促します。日帰り手術です。

  • 01網膜表面の増殖膜剥離

    剥離網膜は脆くなっているため、増殖膜剥離時に網膜に孔が開きやすい状態です。時に、双手法で膜同士を把持して膜を引き裂きながら網膜に孔を開けないように剥離除去していきます。

  • 02網膜下の増殖膜除去

    剥離した網膜の裏側にも増殖膜が張っている症例は、これを除去しないと網膜が柔軟性を回復せず、復位の障害になります。器具を網膜下に入れる入り口を作成し、網膜下の増殖膜を丁寧に除去します。

  • 03パーフルオロンによる網膜進展

    水より重いパーフルオロンという物質を剥離した網膜の上に注入し、その重みで網膜を進展させ、網膜が伸びきらない場所を同定します。その場所には増殖膜が残存しており、さらに除去を進めます。

  • 04網膜切開

    時間が経過した増殖硝子体網膜症では、増殖膜が網膜と一体化し剥離除去が困難な場合があります。これにより硬くなった網膜そのものが、牽引性網膜剥離の原因になっています。この場合は、網膜に切開を加え牽引を取ります。最後の手段です。

  • 05シリコンオイルタンポナーデ

    長く剥離した網膜は接着力が低下しているため、硝子体腔をシリコンオイルで満たして圧迫力で網膜が復位するのを促します(シリコンオイルタンポナーデ)

硝子体出血

硝子体出血とは

眼球の中身は硝子体という水を蓄えた透明なゲル組織で満ちていますが、この中に出血が起きて、視力が低下するのが硝子体出血です。 硝子体出血の原因には多くの病気がありますが、硝子体は本来血管のない組織で硝子体から出血することはなく、網膜の血管が破れた場合(網膜裂孔、網膜細動脈瘤、眼の外傷など)や、網膜から新しい血管が発育し、これが破れてしまう場合(増殖糖尿病網膜症、発症後時間の経過した網膜静脈閉塞症など)に硝子体出血が起きます。

硝子体出血の治療方針

硝子体出血の原因は様々で、比較的緊急性が高い場合とそれほど急ぐ必要の無い場合があります。事前に原因を想定できる場合と想定できない場合がありますが、網膜裂孔による網膜剥離が隠れていると想定される場合は、即日または1~2日以内に硝子体手術を行います。下記2)のように基礎疾患がわかっている場合は急ぎませんが、硝子体出血を起こす前の情報がなかったり、出血量が多くて眼底の情報が全く得られず確証が持てない場合も、早め(数日以内)に硝子体手術を行います。

  • 01比較的緊急性が高い原因

    • 網膜裂孔が形成されている可能性があり、待つ間に網膜剥離が起こり悪化していくため、比較的緊急性が高いと言えます。
    • 外傷による硝子体出血の場合は、同様に網膜裂孔が形成されている可能性が有り、比較的緊急性が高いです。
  • 02緊急性が高くない硝子体出血の原因

    小切開硝子体手術のイメージ図
    • 増殖糖尿病網膜症(反対側の目に糖尿病網膜症が発症している場合は、この可能性が高まります。)
    • 網膜静脈分枝閉塞症(高血圧のある方が多い)
    • 網膜細動脈瘤(高血圧があり、網膜静脈分枝閉塞症の既往のあることが多い)
    • 加齢黄斑変性(反対側の目に、加齢黄斑変性やドルーゼンの所見があることあり)

硝子体出血の治療方法

硝子体手術で出血を取り除き、出血の原因を術中に確認して、問題があれば解決します。

網膜裂孔または網膜剥離を認めた場合

裂孔にかかる硝子体牽引を解除して、裂孔の周囲にレーザー光凝固を行います。剥離がある場合は、目の中をSF6ガスに置換して術後下向きを取り剥離を抑えます。

出血源である網膜新生血管を認めた場合

増殖糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の場合、網膜新生血管が出血源になります。網膜新生血管を熱凝固して再出血を予防します。さらに、網膜、特に周辺部の網膜にレーザーによる汎網膜光凝固を行い、術後の網膜症の鎮静化と血管新生緑内障を予防します。

黄斑下血腫を認める場合

加齢黄斑変性と網膜細動脈瘤は、網膜の下に出血をきたすことが多く、厚い出血が黄斑下にあると黄斑の機能が失われていきます。その場合は、黄斑下手術を行い黄斑下の出血塊を除去します。