デメリットパート6

多焦点眼内レンズの不適合について

はじめに

多焦点眼内レンズは遠くから近くまではっきり見えることが最大のメリットです。多焦点白内障手術を受けたほとんどの方は、その新しい見え方を享受され満足されます。ただし、一部でそのメリットを享受できずお困りになるケース、すなわち不適合のケースがあります。場合によっては単焦点眼内レンズに入れ替える必要がでてきます(国内では1.2%程度、Kamiya K, et al. Am J Ophthalmol.158: 215-220, 2014.)。多くの場合は、適切な適応診断とマッチング、術前の十分な説明と理解により防げますが、ごく一部、多焦点の新しい見え方に対する脳の適応に時間がかかったり、適応できなかったりする方がいます。ここでは、多焦点眼内レンズのデメリットについて整理します。

不適合が起きるのはどんな時か?

次のように、いくつかの原因が考えられます。

  • 多焦点が合わない目に多焦点眼内レンズを用いたとき
  • 白内障によるコントラスト低下がほとんど無い目に老視治療目的で手術をしたとき
  • 多焦点眼内レンズの副症状を認容できないとき
  • 自分の期待と異なったとき
  • 脳の適応が難しいとき

不適合は、十分な適応検査、眼内レンズのマッチング、術前の的確な説明と理解、術後経過まで考慮した正確な手術、術後のトラブルシューティングによりかなり防ぐことができます。しかし、稀に、努力では防げない不適合があるのも事実です。まず、多焦点眼内レンズのデメリットを解説し、その理解の上で不適合の原因を考察します。

多焦点眼内レンズの一般的なデメリット

多焦点眼内レンズには、一般的に下記のデメリットがあります。ヨーロッパのレンズには、このデメリットをかなり克服した多焦点眼内レンズがあります。実際には欠点よりも、遠方から近方なではっきり見える魅力の方が勝っているために、多くの方が満足されています。大切なのは、各デメリットがご自分にとって、どの程度デメリットになるかどうかを考え、マッチングさせていくことです。

コントラストが少し低下する

単焦点眼内レンズは健康で若い水晶体に比べればコントラストはやや劣りますが、ピントが合う距離ではコントラストの高いレンズです。その代わり、ピントが合わない距離ではコントラストは低くなります。これに対して、多焦点眼内レンズは、一般的にコントラストが単焦点眼内レンズよりも少し劣りますが、遠くでも近くでもはっきり見えます。多焦点眼内レンズのなかには、単焦点眼内レンズに劣らない高いコントラストのものもあります。術前のコントラストを考慮して使い分ける必要があります。


【単焦点と多焦点のコントラスト比較(イメージ図)】

では、コントラストが少し低いことは、どのような場合に問題となるかを考察してみます。

1白内障が進んだ方

まず、白内障が進み視力が低下した目にとっては多焦点眼内レンズのコントラスト低下は問題になりません。なぜなら、白内障が進んだ目は、コントラストがかなり落ちているため、どんなレンズを選んでも、術後に必ずコントラストは向上します(下図左端とその隣)。すると、脳は喜びます。脳という存在は、「比較する存在」なのです。向上すれば喜び、低下すれば悲しんだり不機嫌になります。白内障が進んでいる方が多焦点眼内レンズを選ぶと、コントラストが低いとは感じず、メガネ無しで遠くから近くまではっきり見えることのすばらしさに感動を覚え、満足されるのです。

2白内障が軽度である方

白内障が軽度でも、まぶしさや、ものが何重にも見えるなどの初期症状が辛かったり、仕事に支障があると白内障手術が必要になることがあります。このような場合、もともとコントラスト低下は少ないため、コントラストが低めの多焦点眼内レンズを選ぶと、術後のコントラストが低下して、脳は悲しみます(下図中央左)。できるだけコントラストの高い多焦点眼内レンズを選んで術後のコントラストが向上すると脳は喜び、多焦点のどこもかしこもはっきり見える見え方に適応して満足感を得ることができます。

3白内障がほとんど無い方

白内障がほとんどなく、自覚症状もない方が、老視を治す目的で多焦点白内障手術を希望される場合があります。この場合は、まだ高いコントラストをお持ちである場合が多く、どんな多焦点眼内レンズを用いても術後コントラストの低下が起こる可能性が高いと言えます。ですので手術には慎重になる必要があります。仕事やスポーツで老視が不便で、遠近両用眼鏡や遠近両用コンとレンズも不便で使いにくいので、どうしても希望される場合は、できるだけコントラストの高い多焦点眼内レンズを選ぶことと、最初のうちは、全体的にもやっとした見え方(ワクシービジョン)になる場合があることを十分に伝えることが重要です。老視矯正がコントラストの低下以上に快適に感じることができれば満足を得ることができます。


【脳はコントラスト改善を喜び、低下を悲しむ】

ハロー・グレア・スターバースト

ハロー・グレア・スターバーストは、白内障の症状として知られていますが、多焦点眼内レンズでも起こる副症状としても知っておく必要があります。下図に、それぞれの特徴を強調して示します。


【ハロー・グレア・スターバーストのイメージ】

夜間は瞳孔が大きくなっているため、多焦点レンズの広いエリアに光が反射して起こりやすくなります。この現象を感じる方は多いですが、生活や仕事に影響するような程度になることはあまりありません。ただし、運転を仕事とされ、夜間に長時間運転される方は、ハロー・グレア・スターバーストが少ない多焦点眼内レンズを選んだ方が良いと考えます。レンズによりハロー・グレア・スターバーストの強さが異なり、ヨーロッパには、独自の技術でハロー・グレア・スターバーストほとんど無くしたレンズもあります。

なぜ、多焦点眼内レンズは、ハロー・グレア・スターバーストが起きるのでしょうか?多焦点眼内レンズの多くは、回折型です。回折型は、下図のようなシャープな溝が同心円状に配置されています。このため、入ってきた光の一部は複雑な反射を起こしハロー・グレア・スターバーストの原因になるのです。
最近のヨーロッパの回折型多焦点眼内レンズでは、下図のような波型回折構造を用いることでハロー・グレア・スターバーストをかなり減らしているものがあります。部分的に反射は起こりますが、単純な反射で、弱いハローがある程度になっています。


【通常の回折構造】

【波型の回折構造】

ゴースト、ワクシービジョン

ゴーストとは像に薄い像が重なって見える現象で、レンティスで起きることが知られています。多くの方は気にとめなかったり、時間とともに気にならなくなりますが、気になってどうしようもないという方がなかにはいらっしゃいます。
ワクシービジョンは、1のコントラストのところで説明しましたが、術前よりもコントラストが下がった場合に感じる可能性のある見え方です。慣れて脳が受け入れてくてると気にならなくなります。

防げる不適合と防げない不適合がある

多焦点眼内レンズの不適合の多くは、十分な適応検査十分で個々に合った術前説明適切なレンズのマッチング正確な眼内レンズ選択と手術、によって防ぐことができます。しかし、稀に、これらを完璧に行えたとしても不適合になる方がいます。

防げる不適合

多焦点が合わない目に多焦点を用いたとき(適応が不適合)

パート3と4で詳述しましたように、隠れ円錐角膜など角膜に問題があったり、瞳孔径が小さい場合、黄斑疾患がある場合、進んだ緑内障があるなど、適応が低い目に多焦点眼内レンズを選んだ場合、期待したような性能が発揮されず、不満足に感じる可能性が高いです。適応が低い目でも、その原因ごとに使える多焦点眼内レンズもあります。角膜に問題がある場合のピンホールIOL、黄斑疾患や緑内障がある場合の、「単焦点眼内レンズ+アドオン多焦点」などです。パート2を参照ください

白内障によるコントラスト低下がほとんど無い目に老視治療目的で手術をしたとき

「多焦点眼内レンズの一般的なデメリット」のところで詳述しました。まだコントラスト低下が少ない目は、術後にコントラストの低下が起きる可能性があり、ワクシービジョンが生じ不満足の原因になります。コントラスト感度検査をしっかり行い、コントラストが良い場合は、慎重になった方が良いと思われます。それでも希望される場合は、レンティスなど単焦点とコントラストが変わらない多焦点を選ぶことで満足を得られる可能性があります。ただし、レンティスには上述したゴーストが起きますので注意が必要です。

多焦点眼内レンズの副症状を認容できないとき

上述した副症状(ハロー・グレア・スターバースト、ゴースト、ワクシービジョン)に慣れることができず認容できない方が一部おられます。手術の前に、選んだ眼内レンズに応じて起こりえる副症状を十分に説明し理解をしていただくことで、かなり防ぐことができます。また、その方の気質や職業やライフスタイルに応じて、例えばハロー・グレア・スターバーストの少ないレンズを選ぶなどのマッチングも重要です。

自分の期待と異なったとき

白内障手術は、見えなくなった目を見えるようにする手術から、乱視や老眼まで矯正できる精度の高い手術に進歩しました。このため、人が白内障手術への期待も高まっていると言えます。高すぎる期待は、不満足の元になります。多焦点白内障手術は、満足を得ていただくことを追い求める手術です。そのためには手術の前に十分な理解と適度な期待を形成する必要があります。

1多焦点眼内レンズの理解が十分

乱視矯正は一筋縄ではいかない

乱視矯正は、角膜前面と後面の乱視を考慮する必要性や不正乱視は残るなど一筋縄ではいかない側面があります。乱視が残る場合、新たに乱視が出てくる場合、多焦点の見え方に影響します。これに対してトラブルシューティング(タッチアップともいいます)が必要です。こうしたことを理解しておかないと、不満足の原因になります。

副症状を十分理解したか?
多焦点の見え方を理解したか?

2レンズの特徴が自分の期待に合っているかどうか?

防ぐのが難しい不適合

脳の適応(中枢適応)が難しいとき

目でものを見ていると思いがちですが、実際は目から送られた情報を脳が処理して見ています。脳の処理を経て魂の入った視界になるも言えましょう。下図は有名なミュラー・リヤー錯視です。2つ横線は上の方が長く見えますが、実は全く同じ長さです。脳で見ているがために錯視も起こるのです。


【棒の長さの見え方の錯覚】

多焦点眼内レンズの見え方には特徴があります。通常若い頃は、メガネやコンタクトを用いれば、どなたでも見たいところがはっきりと見えますが、見たいところ以外はぼけていて気になりません。下図の左のようなイメージです。バックネットがぼやけているからバッターを集中して見ることができます。一方、多焦点眼内レンズは、常に遠くも近くもピントが合っています。下図の右のイメージです。バッターを見ているのに、バックネットもはっきり見えるわけです。脳は次第に慣れてきて、見たいところだけに意識を集中できるようになり、バックネットは気にならなくなります。これを中枢適応といいます。この中枢適応に時間がかかったり、最終的にできない方が稀にいらっしゃいます。

多焦点眼内レンズの見え方の特徴


通常の見え方

多焦点眼内レンズの見え方