豊富な多焦点眼内レンズパート2

はじめに

多焦点眼内レンズによる白内障手術の鍵のひとつが、「レンズとのマッチング」です。多焦点眼内レンズ(IOL)の選択肢が多いほど自分のライフスタイル目の特徴にマッチするレンズに出会えます。当院では、国内承認のレンズと、その何倍もの種類があるヨーロッパの未承認製品を扱っています。幅広い選択の中から納得のいくレンズを選んでください。

眼内レンズの魅力

白内障手術は「濁った水晶体の中身を除去する」と「代わりになる眼内レンズを入れる」を行う手術です。現在、この眼内レンズが多様に進化して目の問題を解決して素敵な見え方を実現する力を持つにいたりました。眼内レンズで解決できる目の問題とは、近視/遠視、乱視、そして老眼です。ここでは、眼内レンズの種類をお伝えしてご自分に合った(マッチング)眼内レンズにどんなものがあるか理解を深めて頂ければと思います。

日々の生活で「ものを見る」こととは?

眼内レンズを選ぶ上で知っておいていただきたいのは、生活上見えるものの距離には大きく3つあることです。遠方、中間距離、手元の3つですが、この3つは全く別世界なのです。人の目は偉大です。若い頃は、この別世界の3つの距離のどこにもピントを合わせる柔軟な調整力があったのです。しかし、中高年になるとそうはいきません。3つのうち1つにしかピントが合わなくなっていき老眼鏡や遠近両用メガネが手放せなくなるのです。「メガネをかければなんとかなる?」と思い込みがちですが、実は生活には「遠くと手元」「遠くと中間距離」「中間距離と手元」がほとんど同時に見えないと困ることがあるのです。例えば、ゴルフやテニスや卓球などの球技スポーツ、カメラや風景画などの趣味、講習会、車の運転、空港や駅、挙げたらきりがありません。人は調整力を失うと、「年だから――」と思って、こういったことを諦めていくのです。No!あきらめてはいけません。あなたの好きなことをずっと続けられるために眼内レンズは進歩してきました。多焦点眼内レンズです。

多焦点眼内レンズ理解のための基礎知識

加入度数

多焦点眼内レンズは遠視(プラス)でも近視(マイナス)でもない「0」に度数を合わせて遠方視力を確保します。そして、光学的技術により「0」から近方にフォーカスを持ってきます。どれくらい近くまで持っていくかが加入度数です。例えば、4ジオプター(D)近くに持ってくると30cm付近まで焦点が合います(4.0D加入)。多焦点眼内レンズにより加入度数が異なり、見え方のパフォーマンスに違いが出ます。


【加入度数のイメージ図】

光透過率

目に入ってきた光は一部眼内レンズに反射したり吸収されたりしてロスします。黄斑に届く光の比率を光透過率と言います。因みに、白内障が始まると視力が低下する前から光の透過率が低下していきます。

光の配分(光分布)

透過する光のうち遠方、中間、近方に配分する光の割合をいいます。多く配分された距離はよく見えますが、配分が少ないと薄暗いところでコントラストが落ちます。多焦点眼内レンズの見え方は「加入度数」と「光の配分」によりほぼ決まってきます。

EDOF

EDOFとはExtended Depth of Focusの略です。要するに焦点深度を広げることです。例えば、近視があっても目を細めるとすこしはっきり見えるようになることもEDOFです。最近は、老眼鏡を使わずに手元が見えることを優先するのではなく、遠くから中間距離まで連続してはっきり見える方が快適であるという考えが定着しEDOF機能を持つ多焦点眼内レンズが増えています。レンズにより、さまざまな光学技術でEDOFを実現しています。最近は、3焦点EDOFも登場しています。

回折型と屈折型

多焦点眼内レンズには、フォーカスを遠方と近方に分ける光学的技術として「回折型」と「屈折型」があります。現在の多焦点眼内レンズの主流は回折型ですが、一部優れた屈折型も存在します。回折型は、眼内レンズ表面に作られた同心円状の回折構造により、フォーカスを遠方から近方に振り分けます。一方、屈折型は、眼内レンズ上に遠方にフォーカスを合わせるエリアと近方にフォーカスを合わせるエリアに分かれている単純な構造をしています。

性能ごとに分類

3焦点IOL

多焦点の始まりは2焦点でしたが、今や3焦点が主流になってきました。遠方・中間距離(50cm~100cm)・近方の3つの距離がはっきり見えるレンズです。2010年に初めて3焦点眼内レンズが登場して10年が経ち、さまざまな3焦点IOLが使えるようになりました。どれも満足感が高い見え方を提供できるスペックを持ちますが、個性があります。違いを知りマッチングしましょう。

定評ある3焦点眼内レンズ

製品名 ファインビジョン
FineVision
レイワン
RayOne
パンオプティクス
PanOptix
メーカー ベルギー
PhysIOL社
イギリス
Rayner社
アメリカ
Alocn社
販売開始 2010~ 2017~ 2015~
加入度数 1.75Dと3.5D 1.75Dと3.5D 2.17Dと3.25D
光透過率 86.0% 89% 88%
特徴 近方重視の3焦点 コントラストが高い バランス良い
ハロー・グレア 強い とても強い 強い
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3焦点EDOF

最新の3焦点はEDOF設計されているものが増えています。

製品名 アルサフィット
ALSAFit FOURIER
アクリバ・トリノバ
AcrivaTrinova
ファインビジョン トリウム
FineVision Triumf
メーカー ドイツ
ALSANZA社
オランダ
VSY Biotechnology社
ベルギー
PhysIOL社
販売開始 2018~ 2017~ 2019~
加入度数 1.77Dと3.55D 1.5Dと3.0D 1.75Dと3.5D
光透過率 91.4% 90.0% 91.0%
特徴 3焦点EDOFで近くも強い 3焦点EDOF 中間重視の3焦点EDOF
ハロー・グレア 少ない 弱い 強い
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EDOF

遠近2焦点では中間距離の見え方が落ち込むことへの反省から、遠方から中間まで連続して見えることを重視してEDOF(上記基礎知識4)機能の付いた多焦点眼内レンズが登場しました(2017年~)。最初は、手元が見えにくいものが主流でしたが、最近ではヨーロッパで3焦点EDOF(“3焦点IOL”参照)が登場し、手元まで連続して見えるEDOFレンズが選べるようになりました。

初期のEDOF

製品名 シンフォニー
Symfony
ミニウェル・レディー
MiniWell Ready
メーカー アメリカ
AMO社
イタリア
SIFI MedTech社
販売開始 2017~ 2017~
加入度数 1.5D 2.5D
光透過率 92% 94.5%
特徴 3焦点EDOFで近くも強い 自然な見え方
ハロー・グレア 強い ほとんど無い
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3焦点EDOF

3焦点EDOFは、上記「3焦点」をご覧ください。

ハロー・グレア・スターバーストを減らす工夫をした多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズのほとんどは、回折型といい、光の回折を利用しています。回折を生じるために眼内レンズ表面にシャープな溝が同心円状に存在します。このシャープな回折構造がどこもかしこもはっきり見える効果を生み出しますが、反面、光の反射を起こしハロー・グレア・スターバーストの原因にもなります。ハロー・グレア・スターバーストは、ほとんどの場合は慣れて気にならなくなりますが、夜間に長時間運転する方は疲れやすくなったり、神経質な方は気になって慣れなかったりします。このため、ハロー・グレア・スターバーストを減らす工夫をした多焦点眼内レンズを紹介します。


【回折構造と光の反射のイメージ】

【ハロー・グレア・スターバースト】
製品名 ミニウェル・レディー
MiniWell Ready
アルサフィット
ALSAFit FOURIER
アクリバ・トリノバ
AcrivaTrinova
メーカー イタリア
SIFI MedTech社
ドイツ
ALSANZA社
オランダ
VSY Biotechnology社
販売開始 2017~ 2018~ 2017~
加入度数 2.5D 1.77Dと3.55D 1.5Dと3.0D
光透過率 94.5% 91.4% 90.0%
特徴 EDOF 3焦点EDOF
(近方強い)
3焦点EDOF
ハロー・グレア ほとんど無い 少ない 少ない
工夫 球面収差でEDOF化(回折溝が無い) 回折溝が波形状 回折溝が波形状
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屈折型多焦点眼内レンズ

屈折型は単焦点と同じ屈折エリアを遠方用と近方用の2つに分けている多焦点眼内レンズです。自然でコントラストの高い見え方に定評があります。

製品名 レンティス
Lentis
プレシゾン
Precizon
メーカー ドイツ
Oculentis社
オランダ
Ophtec社
販売開始 2011~ 2018~
加入度数 3.0D 2.75D
光透過率 92.5% 約90%
特徴 0.01刻みの完全オーダーメイド 自然な見え方
ハロー・グレア やや強い 弱い
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2焦点だが優れた個性を放つIOL

製品名 アクティブフォーカス
Active Focus
テクニスマルチ
Tecnis Multifocal
メーカー アメリカ
Alcon社
アメリカ
Alcon社
販売開始 2018~ 2013~
加入度数 2.5D 2.75D, 3.25D, 4.0D
光透過率 87.4% 82.0%
特徴 遠中2焦点 遠中または遠近2焦点
優れた個性 遠方が強い
(約70%を遠方配分)
中心直径約0.94mmが屈折エリアで遠方配分
3種類の加入度数が選べる
唯一の4.0D加入があり手元に強い
ハロー・グレア 弱い 強い
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ピンホールIOL

軽い近視の方が目を細める癖があるのは、目を細めることで焦点深度が深くなり視力が良くなるからです。小さな孔(ピンホール)を通して見ると視力が上がります。これをピンホール効果と言います。ピンホール効果によりEDOFを得ているのがIC-8です。円錐角膜や外傷で不正乱視がある目など多焦点眼内レンズに向かない目でも適応があります。

製品名 IC-8
メーカー アメリカ
AcuFocus社
販売開始 2017~
加入度数 ピンホール効果 (近方50cm~)
光透過率
特徴 3焦点EDOFで近くも強い
ハロー・グレア 弱い
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多焦点アドオンIOL

アドオン眼内レンズは、既に白内障手術が行われた目に、もう一枚挿入できる薄い眼内レンズで着脱が容易です。術後に残ったり、術後変化で発生した不都合な屈折誤差や残存乱視を矯正し快適な見え方を取り戻せる便利な眼内レンズです。最近、多焦点機能がついたアドオンレンズがいくつか登場し、後で多焦点機能を付けることが可能になりました。次のような使い方ができます。

① すでに単焦点眼内レンズが入っている目にアドオンレンズを挿入し多焦点にする

② 単焦点眼内レンズとアドオン多焦点眼内レンズを同時期に挿入する。緑内障や加齢黄斑変性の初期で視機能が良好である間は多焦点機能を享受して、将来進行して多焦点機能が不利に働いた場合、アドオンレンズを摘出し単焦点に変えることができる。


【アドオン眼内レンズの挿入位置】
製品名 スルコフレックス
Sulcoflex
キャメルレンズ
Camellens
アドオン
AddOn
メーカー イギリス
Rayner社
イタリア
Soleko社
ドイツ
1st Q社
販売開始 2017~ 2019~ 2015~
加入度数 1.75Dと3.5D 2.5D 3.0D
特徴 唯一の3焦点アドオン 遠中EDOF 4点支持
ハロー・グレア 強い やや強い 強い
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(附録)国内承認と未承認

ここに挙げました多焦点眼内レンズの大部分は、国内未承認で一部が国内の薬事承認を受けています。以下の表にその区別をお示しします。青枠が国内承認、緑枠が未承認です。詳細はパート6「制度」をご覧ください

■国内承認;■国内未承認

3焦点
3焦点EDOF
EDOF
低ハロー・グレア
屈折型
個性的な2焦点
ピンホールIOL
アオドン多焦点