先端機器(手術)パート5

正確な多焦点白内障手術を支える手術機器システム・器具

はじめに

なぜ多焦点白内障手術は精度が高くなければいけないのでしょうか?

多焦点白内障手術の鍵の一つは「精度の高い白内障手術行程」です。多焦点眼内レンズの多くは、眼内レンズの中心を中心とする同心円状の回折構造がしつらえてあります。このため多焦点眼内レンズの性能が発揮されるためには眼内レンズが目の真ん中に固定されることが望まれます。これに対して単焦点眼内レンズは、どのエリアも同じ構造をしていますので、多少中心からズレても(偏心)よく見えます。また、多焦点眼内レンズは目に入ってくる光に対して垂直に位置するのが望ましく、大きく傾くと性能が十分発揮されません。多焦点眼内レンズは偏心や傾きの影響を受けやすい性質を持つと知らねばなりません。すなわち、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズよりも、常に正確な手術行程が求められるのです。また、眼内レンズの位置は水晶体嚢を支持する線維であるチン小帯の状態に依存しますので、チン小帯に負担をかけない手術が求められます。さらには、水晶体嚢は術後に残存水晶体上皮細胞の増殖と細胞外マトリックス産生により線維化が起こり眼内レンズの位置がズレることがあります。水晶体嚢の線維化による眼内レンズの位置変化を受けにくくするための正確な手術行程と補助器具が求められます。精度の高い白内障手術とは、術後の目の反応も考慮した再現性の高い正確な手術といえます。
 次に乱視矯正にも正確さが求められます。角膜乱視は単焦点眼内レンズにおいては悪とは限らず、角膜の適度な強さの正乱視は焦点深度を深くしてくれます。しかし、多焦点眼内レンズでは角膜乱視は見え方の質を落としますので、できるだけトーリックレンズを使い矯正し小さくしておく必要があります。トーリックレンズは、下図のような軸を持ち、これを術前に調べておいた角膜乱視の弱主計線(1番角膜カーブが弱い軸)に合わせることが求められます。ところが、人の目は座位と仰臥位では目が回旋して異なる位置にあるため、正確な軸合わせを支援するシステムが必要になります。
 ここでは、「精度の高い白内障手術行程」を支える先端機器と器具について説明いたします。

白内障手術ガイダンス・システムVerion(米国アルコン社)


【Verion】

これまでの手術では、執刀医の経験に基づいた目分量により切開と眼内レンズの固定を行ってきました。しかし、術眼の状態には個人差が大きく熟練した術者でも、常に正確な操作を行うことは難しいと言わざるを得ません。角膜の大きさや瞳の開き方に個人差があります。老人環などの加齢変化が目の中心をわかりにくくします。散瞳にムラのある目もあります。

Verionは、術前に目を精密測定しておくことで、以下の2つのことが可能になります。

  • 1.術前に前眼部の形状を測定して目の中心や目のサイズや乱視の軸が記憶されます
  • 2.白目の血管や虹彩の紋様を記憶して、術中に目が動いたり回旋したりして位置が変わっても、リアルタイムに目の位置を追いかけてガイドとなるデジタルマーカーを常に正確に表示します

この性能により、以下の4つの術中ガイダンスが行われます。

1角膜切開位置ガイド


青三角により乱視を減らすための角膜切開の位置が表示されます。

2前嚢切開マーキング


目の中心を中心とする設定した直径の円が表示されます。術者は円に沿って前嚢切開をすることで、思うがままに眼内レンズに合ったサイズの切開を中心に行うことができます。

3乱視矯正軸マーキング


乱視矯正用トーリック眼内レンズの乱視軸が表示されます。術者は、眼内レンズ上のマーカー(このレンズでは3つに並んだ点)を、このデジタルマーカーに重ねます。

4眼内レンズセンタリングガイド


眼内レンズを中心部に固定するための同心円のマーカーが表示されます。

メリット

  • 1.前嚢切開、乱視矯正トーリック眼内レンズのポジショニング、眼内レンズのセンタリングなどの手術操作が目分量で行う通常の手術より正確にできる。
  • 2.手術の時仰臥位になって目が回旋して位置が変わったり、目が動いても目の変化を追いかけて常に同じ位置にガイダンスが表示される。

デメリット

一部に眼表面の認証がうまくできず使えない症例がある

VERIONを用いた白内障手術ガイダンスの流れ

「Imaging(撮影)⇒Plan(計画)⇒Guide(ガイダンス)」

1Imaging 眼球の高速撮影と測定(術前に外来で)

白目の血管、輪部、虹彩のデジタル写真を高速に約1000回撮影します。白目と虹彩など目の表面には1人ひとり異なる特徴があります。この個々の特徴を指紋や顔認証と同様に認証することで、手術中に目が動いても動きを追いかけて(トラッキング)、創口作成、前嚢切開、眼内レンズ中心固定、トーリック眼内レンズ軸固定の位置をリアルタイムに正確にガイドできるのです。

何を測定するのか?

角膜曲率・角膜輪部の位置と直径・強膜位置・瞳孔形状・角膜反射位置・視軸偏心量

2Planning 治療プラン策定

ビジョン・プランナ-(Vision Planner)というソフトウエアにより眼内レンズの度数計算や乱視矯正プラン(トーリック眼内レンズの軸決定、切開創の位置、角膜弧状切開)を立てます。

3Guide system 術中デジタルマーキング

手術開始時に眼表面の認証を行い、術前に撮影した眼表面の認証情報とリアルタイムに照らし合わせて、目が回旋したり動いてもリアルタイムに追いかけ(トラッキングして)、常に正確に、術前に計画した角膜切開位置、前嚢切開位置、眼内レンズセンタリング、トーリックIOLの軸を手術顕微鏡にデジタルマーカーで表示されます(上記写真)。目が動いてもデジタルマーカーも一緒に動くため手術操作時常に正確なガイドが行われるのです。

レーザー白内障手術(フェムトセカンドレーザー)LensX(米国アルコン社)


【レーザー白内障手術を行っているところ】

レーザー白内障手術機器LensXは、コンピューター制御されたフェムトセカンドレーザーにより、白内障手術の重要な切開や水晶体核分割を行う機器です。

フェムトセカンドレーザー・テクノロジー

フェムト秒とは1000兆分の1秒です。この超短時間でレーザーが発振されるため、熱は発生せず、鋭利に切開できます。元々、フェムトセカンドレーザーは工業用の微細加工や眼科ではレーシックに用いられてきた技術であり、精密な切開を得意とする技術です。メスと異なりコンピューター制御できることが最大の利点で、単に精密なだけではなく常に同じことができます。


【フェムトセカンドレーザーにより組織を切開するイメージ】

レーザー白内障機器LensXはガイダンスシステムにより本領を発揮する。ガイダンスシステムはLensXと連携してパーフェクトになる)

ガイダンスシステムにより手術操作に正確なガイドマーカーが表示されることで、手術操作はより正確に近づきますが、手による操作である限り100%ガイド通りに切開できるわけではなく不正確さは残ります。例えば、手では前嚢切開を正円にすることはできません。優秀な術者であっても、やはり人間ですから、疲れやその日のコンディションなどで手術の精度には若干のばらつきや誤差が出ることは否めません。レーザー白内障手術は、コンピューター制御されたフェムトセカンドレーザーが切開を行いますので、常に正確無比です。コンピューターは疲れないので、いつも設計通りの手術操作が可能です。ガイダンスシステムは、LensXとの連携によりパーフェクトになると言えましょう。

コンピューター制御されたレーザーといえども手術プラン設計が不正確であると、不正確な手術になってしまいます。LensXはガイダンスシステムVerionが測定した目の情報をすべて取り込みます。すなわち、Verionにより目の中心と乱視軸を認識した上で手術プラン設計し、それに基づいて手術操作を行います。VerionとLensXの連携こそが正確性の高い手術を支えるのです。
では、具体的にVerionとLensXの連携で何ができるのか見てみましょう。

1前嚢切開を設計どおり正確に

前嚢切開の位置や大きさは眼内レンズをしっかり包み込んで正確な位置に固定するために大切です。術後、水晶体嚢の線維化による収縮が起きたときに眼内レンズが偏心したり傾いたりすることを防いでくれます。レーザー白内障手術は、手では決してできない設計通りの正確な前嚢切開を可能とします。その設計とは、

  • ・目の中心を中心とする前嚢切開
  • ・決められた直径(例えば直径5mm)
  • ・正円

【レーザー 対 術者の手】

【レーザーと術者に手による前嚢切開の様子】

【LensXによる前嚢切開の様子】

2核をあらかじめ細分割し目のリスクを減らす

標準的な白内障術式である超音波乳化吸引術は破壊力があり、短時間で水晶体の硬い核を破砕して吸引できますが、熟練した技術が無いと水晶体嚢を支える線維であるチン小帯に負担をかけたり、角膜内皮細胞を減らしてしまうリスクがあります。水晶体嚢が破れると多焦点眼内レンズは使えなくなります。チン小帯が伸びたり切れたりすると眼内レンズの位置が中心からはずれたり、傾いてしまいます。レーザー白内障手術は、目の中に入る前に水晶体核を賽の目のように細かく分割しますので、超音波をかける時間やパワーが約半分に減ることがわかっています(Zoltan Naggy, et al. J. Refract Surgery 2009;25:1053-1060)。核が硬くない白内障なら超音波をかけずに行うことも可能です。水晶体嚢と角膜内皮に優しい手術が可能となります。


【レーザーと術者に手による超音波乳化吸引のイメージ】

【LensXによる核分割の様子】

3手ではできない自己閉鎖創を設計通りに作成

従来の白内障手術は、メスで目に切開を入れて行います。手を用い目分量で行う手技です。一方、レーザー白内障手術では、あらかじめ設計されたとおりの切開を自動で行います。切開創の位置、大きさ、深さが常に設計通りに再現性よく行えます。

レーザー白内障手術のデメリット

1手術時間が増える

レーザー治療⇒移動⇒顕微鏡下手術 と行程が増えるため、従来の顕微鏡下手術のみの手術に比較すると手術時間が増えます。

2白目の出血が増える

レーザー白内障手術で精密な操作を行うために眼球が動かないように眼球を吸い付けて陰圧で固定します。この吸い付ける圧により白目が出血します。しかし、白目の出血は、目に悪影響はまったくありません。見た目だけの問題です。

ORA術中波面収差解析装置(ORAシステム)


【ORA術中波面収差解析装置】

ORAシステムとは?

ORAシステムは、白内障手術における眼内レンズ(IOL)の挿入直前に用いる術中診断ツールです。執刀医は、術中リアルタイムで目全体の屈折情報が把握できるため、術前に予測したより最適なIOL度数およびトーリックIOLの固定位置が選択でき、見え方に対する患者満足度をさらに高めることが期待できます。
IOL挿入術では、術前の検査データに基づきレンズ度数やトーリックIOLの固定位置を事前に設定しますが、手術で切開や水晶体除去などをすることで目の状態が変化するため、設定した度数や固定位置に誤差が生じることがあります。また、強度の近視や遠視がある目、角膜のカーブが大きい、あるいは小さい目、レーシックを受けた目などでは、予測度数に誤差が生じやすいことが知られています。特に多焦点および乱視用のIOL移植においては、僅かな差が満足感に影響を及ぼす可能性があるため、より正確な度数のIOLを、より正確な位置に固定することが望まれています。ORAシステムは、眼内レンズを挿入する直前の情報を用いるため、より正確な眼内レンズ度数、乱視度数・軸を提案してくれます。

ORAシステムの特長

1IOL挿入術における主要な測定値を術中リアルタイムで表示

手術中、レンズを入れる直前の眼球の収差(屈折度数)を測定して、その解析結果を即時インターネットでデータベース(ビックデータ、現在、161万眼以上の症例実績)に送信し、最適な眼内レンズの度数の結果が数秒で提示される。

トーリックIOLの固定位置を1度単位で検証

2手術によって生じる変数を最適化してフィードバック

世界中の手術結果のビックデータをもとに、手術によって生じる変数を定期的に最適化・アップデート

症例を重ねるごとに医師の手技にあったIOL定数・惹起乱視を検証し、医師ごとにカスタマイズされた手術を提案できる


【ORAシステムで術中診断を行うイメージ】

【ORAシステムの効果】的中率が向上している